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最高裁判所第三小法廷 平成9年(オ)1233号 判決 1997年9月30日

東京都千代田区三崎町三丁目一〇番一号

上告人

株式会社カシワジャパン

右代表者代表取締役

柏正美

東京都千代田区三崎町三丁目三番二三号

ニチレイ水道橋ビルアネックス

被上告人

タック株式会社

右代表者代表取締役

齋藤博明

右当事者間の東京高等裁判所平成八年(ネ)第四七八〇号商標権移転登録請求事件について、同裁判所が平成九年二月二〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、違憲をいう点を含め、原審の専権に属する事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決の法令違背をいうものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山口繁 裁判官 園部逸夫 裁判官 大野正男 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信)

(平成九年(オ)第一二三三号 上告人 株式会社カシワジャパン)

上告人の上告理由

第一点

一、業務委託契約の存否について

控訴審判決第三、争点に対する判断で控訴審が認めている通り、上告人(控訴人)と被上告人(被控訴人)との間で教材出版事業に関する業務委託契約が終了したことについては当事者間に争いがない。

また、被上告人は控訴審に於いて乙第二七号証を認めており、乙第二七号証では上告人と被上告人の間での昭和六四年一月一日現在の業務委託料の合意が行われている訳であるから、結局少なくとも昭和六四年一月一日から、業務委託契約が終了した平成六年三月二九日迄の期間、業務委託契約が存在したことについては当事者間に争いがないことになる。

二、業務委託契約の終了と営業譲渡について

和解条項には「本件に関し」「本和解条項に定めるほか何らの債権・債務のないことを相互に確認する」と定められている。

控訴審は、業務委託契約と営業譲渡契約を一連のものとみて、本件和解条項に営業譲渡に関する確認条項が記載され、業務委託に関連する事項が含まれていない以上、営業譲渡契約は清算条項に云う所の「本件に関し、本件和解条項に定める」ものであり、これについては確認されているが、業務委託契約は営業譲渡契約と一体のものとして「本件」に含まれ、かつ「本和解条項に定めるほか」のものである以上(すなわち、和解条項で何ら定められていない以上)債権債務は存在しないものとされたと考えるようである。

これは、おそらく営業譲渡が確認されれば業務委託契約仁ついては当然に終了し、最早業務委託契約については何ら考慮する必要がなくなるのであるから、両者は一体のものと考えて差し支えなく、業務委託契約に基づく報告を要求することも無意味であると考えるからであろう。

しかし、後述するように法人税法等の見地からすれば業務委託契約と営業譲渡契約は全く別のものであり、「本件」に営業譲渡契約が含まれたとしても、業務委託契約まで含まれるものではない。

また、業務委託契約については、本件で争われた事項ではない。

そして、本件和解条項は、包括的清算条項と呼ばれる「原被告間には本和解条項に定めるほか何らの債権債務のないことを相互に確認する」と云うものとは異なり「本件に関し」「本和解条項に定めるほか何らの債権・債務のないことを相互に確認する」とされており、本件に関するもの以外に迄清算条項の効力が及ぶものではない。

従って、業務委託契約と営業譲渡契約が別のものである場合には業務委託契約に関しては本件では何らの問題となっていない訳であるから、本件に関するものとは云えず、清算条項の効力が及ぶものではない。(添付の「上告人の主張」の図解参照)

第二点

一、法人税法上の問題点

「営業譲渡が確認されれば業務委託契約については当然に終了し、最早業務委託契約については何ら考慮する必要がなくなるので業務委託契約に基づく報告を要求することも無意味である」と必ずしも云い切れないのは法人税法上の問題があるためである。

法人税の納税義務は事業年度終了の時に成立し、時効は実質七年とされる。そして、委託販売に於ける売買の損益計算は、すべて委託者の責任において行われる。また、委託販売による収益の額は、その委託品について受託者が販売をした日の属する事業年度の益金の額に算入される。

本件に於いては、委託者である上告人は、受託者である被上告人が委託に関する報告を行わないため、平成六年三月分については、平成一三年三月迄納税義務が消滅せず、実際にも上告人は平成二年からの委託に関する事項について決算報告及び税務申告のための処理ができないでいる。このように控訴審が委託業務の報告義務は清算条項により消滅したとする解釈は国民の三大義務の一つと云える納税の義務の履行不能を帰結し、法人税法、ひいては憲法と矛盾・抵触する解釈であり控訴審の判決は違憲・違法と云わざるをえない。

以上

(添付書類省略)

上告人の主張

控訴審の判断 上告人の主張

<1>「本件」 営業譲渡、委託の両方を含む 営業譲渡のみ

<2>「本件和解条項」に定める事項 営業譲渡のみ(委託についての記載はない) 営業譲渡のみ

<3>結論 委託は「本件」に含まれており「本和解条項」に記載がないから委託に関する報告義務はない。 委託は本件に含まれてない以上、本和解条項にも含まれてなく、委託に関する報告義務はある。(和解の対象ではない)

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